映像アーカイブ

初生雛鑑別法の発展と普及

「CHICK SEXING On the Development and Practise of Baby Chick Sexing Method」
(社団法人 畜産技術協会 初生雛雌雄鑑別師養成所 斉藤整一所長(当時)より寄贈)

この動画は、昭和11年7月ドイツのライプツィヒで開催された第6回万国家禽会議で上映するために、日本雌雄鑑別協会が作成した35ミリフイルムの複製です。平成17年に初生雛鑑別師養成所の斎藤整一所長(当時)によって発見され、保存状態がきわめて良かったので名古屋大学博物館の蛭薙観順博士がVHSビデオとDVDとして複製しました(1)。
生まれたてのヒヨコの肛門にある突起で雌雄を区別できるという研究が東京帝国大学農学部の増井清博士、農林省畜産試験場の橋本重郎氏、大野勇氏によって報告されたのは大正14年3月のことです(2)。それまでは、外観で雌雄を区別できるようになるまで1ヶ月以上も雄雛を無駄に飼っていたので、この技術は養鶏産業にとってはまさに革命的出来事でした。当時、鶏の一大産地であった愛知県の養鶏業者が中心となって、この技術の実用化に取り組み、昭和4年には早くも「雌量八割保証初生雛」が販売されるようになりました(3)。その後、雌雄鑑別師の団体が乱立していましたが、昭和8年10月に諸団体を統合して、鑑別技術の普及や技術者の養成を目的に日本雌雄鑑別協会が設立されました(4)。
この映画は増井博士の万国家禽会議出席が決まってから急遽制作することになったもので、昭和11年6月10日に撮影開始、完成して試写会を開いたのは渡航2日前の6月21日でした(5)。逆さまになった字幕は急いで作った様子を物語っています。会議5日目の午後に行われた増井博士の講演の後に上映され、続いて在欧の鑑別師によるデモンストレーションもあったそうです(6)。
最初に登場するのは名古屋市瑞穂通りにあった市民病院前の日本雌雄鑑別協会の建物です。
次に映っているのは東京帝国大学農学部獣医学教室で、増井博士が「小池君」と呼ばれている人物をトレーニングしています(5)。小池君というのは東京出身の小池廣一郎氏で、昭和9年の乙種鑑別師の名簿(登録順)で一番最後に名前が載っている新米鑑別師のようです。途中で登場する畜産学教室教授の岩住良治博士は日本畜産学会初代会長で、当時は日本雌雄鑑別協会の会頭を務めておられました。
次は昭和9年10月に協会内に新設された雌雄鑑別講習所に移ります。この講習所には初等科(1ヶ月)、中等科(1ヶ月)、高等科(3ヶ月)の3コースが設けられています。ヒヨコの保定と肛門の開張の実技では、「掴み鑑別」と呼ばれるA法(7)で玉置弘治氏が実演しています。大野勇氏が考案したB法(7)は酒井又一氏が実演しています。
ここにはアップしていませんが、本編では協会理事の喜田村修氏が考案した開腹術が紹介されています。これは鑑別したヒヨコの雌雄を腹腔内の卵巣と精巣で確認するために、解剖用具を使わずに指先で瞬時に開腹する技術で、鑑別結果をその場ですぐに確認することができます。検定試験や鑑別競技会ではこの方法で正誤をチェックすることになっています(8)。
教室のシーンでは海外派遣鑑別師の選定のための学術試験が行われています。セーラー服の女性は埼玉県出身の奥富すい氏で、彼女は女性鑑別師の海外派遣第1号として昭和12年にイギリスで活躍しました(9)。和服姿の試験監督はこの技術の実用化に尽力した小島学氏です。世界記録の古橋留一氏は昭和10年イギリス、同11年オーストラリア、同12年ベルギーに派遣された大ベテランで、100羽100%5分45秒の記録は昭和11年の日本雌雄鑑別協会五百羽詮衡(選考)検定における記録です。
孵卵室では、孵化中の卵を取り出して温度を確認しています。壁には温湿度計が掛かっていますが、玉子をまぶたにあてて温度をチェックするのは昔からの万国共通のやり方です。
最後に登場する三和農場は、養鶏飼料会社である伊藤商事の飼料試験場で、名古屋市緑区大高町の13町歩の広大な敷地に8万羽の鶏を飼育し、当時は東洋一だったそうです(10)。「milk-fed-chicken」というのは全乳や脱脂粉乳を混ぜた飼料で育雛したということで、発育に著しい効果があったといわれています(11)。
増井博士は昭和56年に亡くなられましたが、昭和63年に名古屋で開催された第18回万国家禽会議で家禽学の殿堂(International Poultry Hall of Fame)入りを果たされました。万国家禽会議(現在の訳名:世界家禽会議)は4年に1回開かれますが、100周年記念となった2012年8月のブラジル大会ではこの動画が上映され、大変好評でした。そしてこの大会で、名古屋大学の島田清司博士が待望の日本人二人目となる殿堂入りを果たされました。

「静岡大学農学部教授 森 誠」

  1. (1) 蛭薙観順:映画「CHICK SEXING On the Development and Practise of Baby Chick Sexing Method」(初生雛雌雄鑑別法の発展とその普及)のオリジナルフィルムの発見. 名古屋大学博物館報告, 22:65−72.(2006年)http://ir.nul.nagoya-u.ac.jp/jspui/bitstream/2237/9308/1/No22%2065-72.pdf
  2. (2) 増井清・橋本重郎・大野勇:雄鶏ニ於ケル(退化)交尾器官並ニ初生雛ノ雌雄ノ鑑別ニ就テ.日本畜産学会会報, 1:153-163.(1925年)
  3. (3) 小島學:雌雄鑑別は如何にして実用化されたか(三).鶏の研究, 9(12):16-21.(1932年)
  4. (4) 榊山勇蔵:雌雄鑑別今昔物語(1).養鶏之日本, 55:126-131.(1970年)
  5. (5) 映画初生雛雌雄鑑別法の発展とその普及. 日本雌雄鑑別協会々報, 18:3.(1936年7月)
  6. (6) 増井清:第六回万国家禽会議に出席して =我が鑑別師の欧羅巴への進出=.鶏の研究, 14(3):2-9.(1937年)
  7. (7) 増井清:鶏の性と雌雄鑑別の研究. 日本中央競馬会.(1975年)
  8. (8) 原田実:図解雌雄鑑別手ほどき. 鶏の研究社.(1937年)
  9. (9) 海外部報告英国班. 日本雌雄鑑別協会々報, 20:4.(1938年2月)
  10. (10)足立松陽:伊藤和四五郎伝. 育生社.(1938年)
  11. (11)小倉新吉:養鶏飼料としてのミルクについて(上).鶏の研究, 25(10):32-35.(1950年)

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